November 28, 2002 Vol. 347 No. 22
水銀,魚油と心筋梗塞のリスク
Mercury, Fish Oils, and the Risk of Myocardial Infarction
E. GUALLAR AND OTHERS
生理活性は知られていないが反応性の高い重金属である水銀により,心血管疾患のリスクが増加することが示唆されている.水銀の主な曝露源は魚類の摂取であるため,魚類の水銀含有量が,魚類に含まれる n-3 系脂肪酸の有益な効果を相殺してしまう可能性がある.
欧州 8 ヵ国とイスラエルで実施した症例対照研究で,男性の足指爪の切れ端に含まれる水銀の量および脂肪組織中のドコサヘキサエン酸(C22:6n–3 すなわち DHA)濃度と,初回心筋梗塞のリスクとの関連性を同時に評価した.患者群は,はじめて心筋梗塞と診断された男性 684 例であった.対照群は,同じ集団の代表として選択された男性 724 例であった.
対照群における足指爪中の平均水銀含有量は 0.25 μg/g であった.DHA 濃度と冠動脈危険因子で補正すると,患者群の水銀含有量は対照群に比べて 15%高かった(95%信頼区間 5~25%).水銀含有量の最高 5 分位群と関連した心筋梗塞のオッズ比は,危険因子で補正すると,水銀含有量の最低 5 分位群と比較し,2.16 であった(95%信頼区間 1.09~4.29;傾向性の P 値=0.006).水銀含有量で補正すると,DHA 濃度は心筋梗塞のリスクと逆相関していた(最低 5 分位群に対する最高 5 分位群のオッズ比 0.59,95%信頼区間 0.30~1.19;傾向性の P 値=0.02).
足指爪の水銀含有量は心筋梗塞リスクと正の相関を示し,脂肪組織の DHA 濃度はこのリスクと逆相関していた.高い水銀含有量は,魚類の摂取による心臓保護効果を低下させる可能性がある.