香港における重症急性呼吸器症候群の集積症例
A Cluster of Cases of Severe Acute Respiratory Syndrome in Hong Kong
K.W. Tsang and Others
重症急性呼吸器症候群(SARS)の臨床像についての情報は,SARS 患者を診療する可能性のある臨床医にとって有益である.
香港の病院で 2003 年 2 月 22 日~ 3 月 22 日のあいだに SARS と診断された中国人患者で,疫学的に関連する 10 例の患者(男性 5 例,女性 5 例,年齢 38~72 歳)の臨床症状と経過に関するデータを要約した.
感染源となった患者と二次感染した患者たちの接触の程度は,最低限の接触から,患者と医療関係者の接触まで大きな幅があった.潜伏期間は 2~11 日であった.発熱はすべての患者にみられ(38 ℃以上が 24 時間以上),多くの患者は悪寒,乾性咳,呼吸困難,倦怠感,頭痛,低酸素症を呈した.胸部の聴診でクラックル(ぱちぱち音),打診で濁音が認められた.リンパ球減少が 9 例の患者でみられ,多くの患者はアミノトランスフェラーゼ値がやや上昇していたが,血清クレアチニン値は正常であった.胸部 X 線の経時的な所見では進行性の含気病変像が認められた.2 例が進行性呼吸不全で死亡し,肺の病理解剖所見ではびまん性肺胞障害がみられた.肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae),肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae),レジオネラ・ニューモフィラ菌(Legionella pneumophila)などによる感染の所見はみられなかった.すべての患者は平均(±SD)9.6±5.42 日間コルチコステロイドとリバビリンでの治療を受け,8 例は初期にβラクタム系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬の併用療法を 4±1.9 日間受けたが,臨床的にも X 線像上でも治療改善効果はみられなかった.
SARS は,元が感染性であると思われる.発熱に続き急速に進行する呼吸不全が起るのがこの疾患の特徴であり,その名称の由来となっている.SARS の病原微生物は依然として不明である.
(本論文は 2003 年 3 月 31 日 www.nejm.org に)発表された.