香港における重症急性呼吸器症候群の大規模な集団発生
A Major Outbreak of Severe Acute Respiratory Syndrome in Hong Kong
N. Lee and Others
世界中で重症急性呼吸器症候群(SARS)が集団発生している.香港の 1 病院での集団発生中に SARS が疑われた 138 例の,臨床所見,検査所見および X 線所見の特徴について報告する.
2003 年 3 月 11 日~25 日,発端患者あるいは病棟への曝露後に SARS が疑われた患者全例を,プリンス・オブ・ウェールズ病院(Prince of Wales Hospital)の隔離病棟に入院させた.それぞれの人口統計学,臨床所見,検査所見,および X 線所見の特徴を分析した.臨床エンドポイントは,集中治療の必要と死亡であった.単変量解析と多変量解析を行った.
患者集団は男性 66 例と女性 72 例から成り,そのうち 69 例は医療従事者であった.もっとも多く認められた症状は,発熱(患者の 100%);悪寒,戦慄,あるいはその両方(73.2%);筋肉痛(60.9%)であった.咳と頭痛も患者の 50%以上で報告された.これ以外に多く認められた所見に,リンパ球減少(69.6%),血小板減少(44.8%),乳酸脱水素酵素値とクレアチンキナーゼ値の上昇(それぞれ 71.0%と 32.1%)があった.胸部コンピュータ断層撮影では,末梢に含気像が高頻度に認められた.合計 32 例の患者(23.2%)が集中治療室に入院し,5 例が死亡した.死亡例すべてに合併症が認められた.多変量解析において,有害転帰の独立した予測因子は,高齢(加齢 10 歳に対するオッズ比 1.80;95%信頼区間 1.16~2.81;P=0.009),乳酸脱水素酵素値のピークが高いこと(100 U/L 当りのオッズ比 2.09;95%信頼区間 1.28~3.42;P=0.003),そして初診時好中球の絶対数が正常値の上限を超えていること(オッズ比 1.60;95%信頼区間 1.03~2.50;P=0.04)であった.
SARS は,この患者集団において顕著な病態と死亡をもたらした重篤な呼吸器疾患である.
(本論文は 2003 年 4 月 7 日 www.nejm.org に)発表された.