カナダにおける重症急性呼吸器症候群の同定
Identification of Severe Acute Respiratory Syndrome in Canada
S.M. Poutanen and Others
重症急性呼吸器症候群(SARS)は原因不明の疾患で,最近アジアや北米,ヨーロッパの患者で認知されたものである.この報告は,カナダでの SARS 症例の同定と,それに続く初期の疫学的所見,臨床記述および診断所見の要約である.
SARS は 2003 年 3 月上旬にカナダではじめて確認された.最初の 10 症例の疫学,臨床,診断データを,確認された時点から前向きに収集した.病原微生物を同定するため,全症例の検体を地元,州,国の研究所,そして国際研究センターに送付した.
患者の年齢は 24~78 歳で,そのうち 60%は男性であった.感染は密接に接触した場合にだけ生じた.もっともよくみられた症状は発熱(症例の 100%)と倦怠感(70%)で,その後に乾性咳(100%)と,胸部 X 線検査で認められた浸潤(100%)に関連した呼吸困難(80%)が生じた.リンパ球減少(データのある患者の 89%)や,乳酸脱水素酵素値の上昇(80%),アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ値の上昇(78%),クレアチニンキナーゼ値の上昇(56%)がよく認められた.経験的治療として主に,抗菌薬,オセルタミビル,静注リバビリン投与が行われた.患者 5 例で機械的人工呼吸が必要となった.3 例が死亡し,5 例が臨床的改善を示した.検査室での調査結果は,患者 9 例中 5 例の呼吸器検体でヒトメタニューモウイルスが増幅し,9 例中 5 例の呼吸器検体から新種のコロナウイルスが分離・増幅された以外は,陰性あるいは臨床的に有意ではなかった.4 例からはこの両方の病原体が分離された.
SARS は相当な罹患率と死亡率に関連した疾患で,飛沫感染や接触感染を示唆する伝播様式をもつ,ウイルスが原因の疾患と思われる.ヒトメタニューモウイルス,新型コロナウイルス,あるいはその両方の役割については,さらに詳しい研究が必要である.
(本論文は 2003 年 3 月 31 日 www.nejm.org に)発表された.