November 11, 2004 Vol. 351 No. 20
安定冠動脈疾患におけるアンジオテンシン変換酵素阻害薬
Angiotensin-Converting-Enzyme Inhibition in Stable Coronary Artery Disease
The PEACE Trial Investigators
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は,左室収縮機能障害患者や心不全患者において,心不全,心筋梗塞のリスク,および心血管系の原因による死亡のリスクを低下させるのに有効である.また,ACE 阻害薬は,心不全を伴わない血管疾患患者の粥状硬化性合併症を減少させることが示されている.
アンジオテンシン変換酵素阻害薬によるイベント予防(Prevention of Events with Angiotensin Converting Enzyme Inhibition; PEACE)試験において,安定冠動脈疾患で,左室機能が正常かわずかに低下している患者では,現在行われている従来の治療法に ACE 阻害薬を追加することによって,治療上の利益が得られるという仮説を検証した.試験は二重盲検プラセボ対照試験で,8,290 例の患者を,標的投与量 4 mg/日のトランドラプリル(4,158 例)またはそれに対応するプラセボ(4,132 例)のいずれかに無作為に割付けた.
患者の平均(±SD)年齢は 64±8 歳,平均血圧は 133±17/78±10 mmHg,平均左室駆出率は 58±9%であった.患者は集中的な治療を受けていた;72%は以前に冠動脈血行再建術を受けたことがあり,70%は脂質低下薬の投与を受けていた.主要エンドポイントである心血管系の原因による死亡,心筋梗塞,冠動脈血行再建術施行の発生率は,中央値 4.8 年の追跡期間中に,トランドラプリル群で 21.9%,プラセボ群で 22.5%であった(トランドラプリル群のハザード比 0.96,95%信頼区間 0.88~1.06,P=0.43).
左室機能が保たれた安定冠動脈心疾患患者で,「最近の標準」療法を受けており,血管疾患患者を対象とした ACE 阻害薬の先行試験よりも心血管イベントの発生率が低い患者では,ACE 阻害薬を追加しても,心血管系の原因による死亡,心筋梗塞,冠動脈血行再建術施行に関して,さらに利益が得られるという根拠はない.