メディケアの薬剤費給付の上限がもたらす予期せぬ結果
Unintended Consequences of Caps on Medicare Drug Benefits
J. Hsu and Others
メディケア受給者に対する処方薬給付に上限を設けることが,どのような結果をもたらすのかについてはほとんど情報がない.
メディケア+チョイスの受給者で,年間薬剤費給付の上限が 1,000 ドルに設定された受給者 157,275 人と,雇用者から補填があるため薬剤費給付に上限がない受給者 41,904 人を対象に,2003 年の臨床転帰と経済的転帰について比較した.
各受給者の特性で補正後,給付金に上限がある受給者は,上限がない受給者と比較して,上限の対象となる薬剤費は 31%低かったが(95%信頼区間 29~33%),医療費の総額は 1%(95%信頼区間 -4~6%)低いだけであることが明らかになった.給付に上限がある受給者では,救急部の受診(相対比 1.09 [95%信頼区間 1.04~1.14]),緊急入院(相対比 1.13 [1.05~1.21]),死亡(相対比 1.22 [1.07~1.38];差,100 人・年当り 0.68 [0.30~1.07])の相対発生率が高かった.2002 年に高血圧,高脂血症,糖尿病で薬剤を使用した受給者のうち,給付に上限がある受給者では 2003 年の長期薬物療法の遵守率がより低く,不遵守となるオッズ比は,高血圧治療薬で 1.30(95%信頼区間 1.23~1.38),高脂血症治療薬で 1.27(1.19~1.34),糖尿病治療薬で 1.33(1.18~1.48)であった.各サブグループにおいて,薬剤費給付に上限がある受給者では,上限のない受給者よりも生理学的転帰が不良で,収縮期血圧が 140 mmHg 以上であるオッズ比は 1.05(95%信頼区間 1.00~1.09),血清低比重リポ蛋白コレステロール値が 130 mg/dL 以上であるオッズ比は 1.13(1.03~1.25),糖化ヘモグロビン値が 8%以上であるオッズ比は 1.23(1.03~1.46)であった.
薬剤費給付に上限を設けることは,服用量の減少や不良な臨床転帰と関連していた.また,慢性疾患患者では,薬物療法遵守の低下,血圧・脂質値・血糖値の管理不良に関連していた.上限を設けることで薬剤費が節減されても,入院や救急部での医療費が増加することで相殺された.