Kir6.2 変異による糖尿病患児におけるインスリンから経口スルホニル尿素への切替え
Switching from Insulin to Oral Sulfonylureas in Patients with Diabetes Due to Kir6.2 Mutations
E.R. Pearson and Others
生後 6 ヵ月未満で糖尿病と診断される症例の 30~58%は,ATP 感受性カリウム(KATP)チャネルの Kir6.2 サブユニットをコードする遺伝子,KGNJ11 のヘテロ活性化変異が原因である.患児は,ケトアシドーシスまたは重度の高血糖を呈し,インスリン療法を受ける.糖尿病はインスリン分泌障害に起因するが,この分泌障害は,細胞内 ATP の増加に応じて閉じる β 細胞 KATP チャネルが遮断されないために起る.スルホニル尿素は,ATP 非依存性の経路を通じて KATP チャネルを遮断する.
Kir6.2 変異を有し,適切な用量のスルホニル尿素薬の投与を受けた連続症例 49 例について,血糖コントロールの状態を評価し,さらに小さなサブグループに分け,グルコースの静脈内投与と経口投与,混合食,グルカゴンに対するインスリン分泌反応を調べた.また,アフリカツメガエル卵母細胞を用いて,スルホニル尿素薬のトルブタミドに対する変異 KATP チャネルの反応を測定した.
計 44 例(90%)の患児では,スルホニル尿素投与後,インスリン投与を終了することができた.in vitro でのトルブタミドによる KATP チャネル遮断の程度は,患児でみられた反応を反映するものであった.糖化ヘモグロビン値は,スルホニル尿素薬投与へ切り替えたすべての患児で改善した(投与前の 8.1%から投与 12 週間後には 6.4%へ改善,P<0.001).改善された血糖コントロールの状態は,1 年後も維持されていた.スルホニル尿素薬投与によってインスリン分泌が増加し,インスリンの分泌は,グルコースの静脈内投与よりも,グルコースの経口投与や混合食によってより促進された.外因性グルカゴンは,スルホニル尿素薬と併用したときのみ,インスリン分泌を増加させた.
スルホニル尿素薬投与は,KCNJ11 変異による糖尿病の患児に対して短期的には安全であり,インスリン療法よりもおそらく有効である.こうしたスルホニル尿素に対する薬理遺伝学的反応は,変異 KATP チャネルが閉じられることと,その結果インクレチンと糖代謝に反応してインスリン分泌が上昇することに起因すると考えられる.(ClinicalTrials.gov 番号:NCT00334711)