新生児糖尿病における ABCC8 遺伝子の活性化変異
Activating Mutations in the ABCC8 Gene in Neonatal Diabetes Mellitus
A.P. Babenko and Others
ATP 感受性カリウム(KATP)チャネルは,β 細胞蛋白質スルホニル尿素受容体(SUR1)と内向き整流性カリウムチャネルサブユニット Kir6.2 で構成される,インスリン分泌の重要な制御因子である.このチャネルは,アデニンヌクレオチドと Kir6.2 サブユニットとの結合によって阻害され(チャネルが閉じる),SUR1 のヌクレオチド結合または加水分解によって活性化される(チャネルが開く).これらの反対作用の均衡により,チャネル開口率(PO)が低下し,膵臓 β 細胞の興奮が制御される.われわれは,SUR1 をコードする ABCC8 の活性化変異が,新生児糖尿病を引き起すという仮説を立てた.
原因不明の,持続性または一過性の新生児糖尿病の患児 34 例において,ABCC8 の 39 のエクソンをスクリーニングした.変異型と野生型の KATP チャネルの電気生理学的活動を測定した.
患児 9 例で 7 つのミスセンス変異が確認された.4 つの変異は家族性で垂直伝播し,新生児糖尿病と成人発症型糖尿病がみられた.残り 3 つの変異は伝播せず,糖尿病でない患者や同様な遺伝的背景をもつ早期発症型糖尿病の患者 300 例以上では認められなかった.無傷の細胞および生理的濃度のマグネシウム ATP の変異チャネルは,野生型チャネルよりも PO 値が著しく大きかった.これらの過剰活性チャネルは,スルホニル尿素への感受性を維持しており,スルホニル尿素薬を用いた治療で正常血糖値が得られた.
ABCC8 の優性変異は,試験群の新生児糖尿病症例の 12%でみられた.この糖尿病は,SUR1 の Kir の孔に対する基本的なマグネシウム・ヌクレオチド依存性刺激作用が上昇するという,新たに発見されたメカニズムによって発症する.スルホニル尿素により変異チャネルは遮断される.