母親へのビタミン A 補給と児の肺機能
Maternal Vitamin A Supplementation and Lung Function in Offspring
W. Checkley and Others
ビタミン A は胎生早期における肺発生と肺胞形成に重要である.母体のビタミン A 摂取の状況は,胎児の肺胞形成の重要な決定因子と考えられており,妊娠中のビタミン A 欠乏は児の肺機能に持続的な有害作用をもたらすおそれがある.この仮説を検証するため,慢性的にビタミン A 欠乏がみられる人口において,妊娠可能年齢の女性へ妊娠前・妊娠中,出産後にビタミン A またはβカロテンを補給する試験から,児の肺機能への長期的な影響を検討した.
1994~97 年のビタミン A またはβカロテン補給に関するプラセボ対照二重盲検クラスター無作為化試験に参加した母親から出生した,ネパール農村部の 9~13 歳の小児を対象に調査した.
最初の試験の終了時に生存していた小児 1,894 例のうち,1,658 例(88%)がこの追跡試験に適格であった.2006 年 10 月~2008 年 3 月に,1,371 例(適格例の 83%)にスパイロメトリーを実施しえた.身長,年齢,性別,体格指数(BMI),暦月,カースト,使用したスパイロメーターにより補正すると,ビタミン A 群の母親から出生した児の 1 秒量(FEV1)と努力肺活量(FVC)は,プラセボ群の母親から出生した児に比べ有意に高かった(FEV1:ビタミン A 群のほうが 46 mL 高い,95%信頼区間 [CI] 6~86;FVC:46 mL 高い,95% CI 8~84).βカロテン群の母親から出生した児の補正した FEV1 と FVC は,プラセボ群の母親から出生した児と同程度であった(FEV1:βカロテン群のほうが 14 mL 高い,95% CI -24~54;FVC:17 mL 高い,95% CI -21~55).
慢性的に栄養不足の人口において,妊娠前・妊娠中,出産後に推奨される食事摂取レベルでの母体へのビタミン A 補給は,児の肺機能を改善した.その公衆衛生への利益は思春期前の年齢において明らかであった.