January 13, 2011 Vol. 364 No. 2
ヒトにおけるスカベンジャー受容体 BI の遺伝子変異
Genetic Variant of the Scavenger Receptor BI in Humans
M. Vergeer and Others
マウスでは,肝臓やステロイド産生器官への高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール輸送に,スカベンジャー受容体クラス B タイプ I(SR-BI)が不可欠である.逆説的に,SR-BI ノックアウトマウスでは,HDL コレステロール値の上昇はアテローム性動脈硬化の促進と関連している.ヒトの代謝における SR-BI の役割は明らかにされていない.
HDL コレステロール値が上昇している人において,SR-BI をコードする遺伝子の配列を決定し,新規のミスセンス変異(P297S)を有する家族を同定した.P297S 変異が,HDL の結合,細胞のコレステロールの取込みと引抜き,アテローム性動脈硬化,血小板機能,副腎機能に及ぼす機能的効果を検討した.
変異 SR-BI を発現している初代マウス肝細胞における HDL コレステロールの取込みは,野生型 SR-BI を発現している肝細胞における取込みの半分に低下していた.P297S 変異保有者では,HDL コレステロール値が上昇し(70.4 mg/dL [1.8 mmol/L] 対 非保有者 53.4 mg/dL [1.4 mmol/L],P<0.001),マクロファージからのコレステロール引抜き能が低下していたが,頸動脈内膜中膜厚は,変異保有者と家族内の非保有者で同程度であった.変異保有者の血小板では,非エステル化コレステロール量が増加し,機能障害が認められた.変異保有者では,ステロール代謝産物の尿中排泄低下,コルチコトロピン刺激に対する反応の低下,副腎機能低下の諸症状から副腎ステロイド産生の低下が示された.
SR-BI の機能的変異を有する家族を同定した.変異保有者では HDL コレステロール値が上昇し,マクロファージのコレステロール引抜き能が低下していたが,アテローム性動脈硬化の有意な促進はみられなかった.SR-BI 機能の低下は,血小板機能の変化と副腎のステロイド産生の低下に関連していた.(欧州共同体ほかから研究助成を受けた.)