October 6, 2011 Vol. 365 No. 14
HER2 陽性乳癌に対するトラスツズマブ補助療法
Adjuvant Trastuzumab in HER2-Positive Breast Cancer
D. Slamon and Others
HER 陽性乳癌の補助療法においてトラスツズマブは生存率を改善するが,アントラサイクリンベースレジメンとの併用療法は心毒性との関連が認められている.われわれは,アントラサイクリン系薬を用いない療法にトラスツズマブを追加する新規レジメンの有効性と安全性を検討した.
HER2 陽性早期乳癌の女性 3,222 例を,3 週ごとにドキソルビシンとシクロホスファミドを投与後ドセタキセルを投与する(AC-T)群,AC-T に 52 週のトラスツズマブを追加する(AC-T+トラスツズマブ)群,ドセタキセルとカルボプラチンに 52 週のトラスツズマブを追加する(TCH)群のいずれかに無作為に割り付けた.主要エンドポイントは無病生存率とした.副次的エンドポイントは全生存率と安全性とした.
追跡期間中央値 65 ヵ月で,656 件のイベントが発生し,プロトコールに規定した解析を行った.推定 5 年無病生存率は,AC-T 群 75%,AC-T+トラスツズマブ群 84%,TCH 群 81%であった.推定全生存率は,それぞれ 87%,92%,91%であった.有効性(無病生存率または全生存率)について,トラスツズマブレジメンの 2 群間に有意差は認められなかったが,いずれも AC-T 群より優れていた.うっ血性心不全と心機能低下の発現率は AC-T+トラスツズマブ群が TCH 群より有意に高かった(P<0.001).急性白血病が 8 例報告され,内訳はアントラサイクリン系薬を用いた群 7 例,TCH 群 1 例で,この 1 例では試験外でのアントラサイクリン投与後に発症した.
トラスツズマブ補助療法を 1 年間追加することにより,HER2 陽性乳癌女性の無病生存率と全生存率は有意に改善した.有効性が同等で急性毒性作用が少なく,心毒性と白血病のリスクが低いことを考慮すると,リスク利益比は,アントラサイクリン系薬を用いない TCH レジメンのほうが AC-T+トラスツズマブより優れていた.(Sanofi-Aventis 社,Genentech 社から研究助成を受けた.BCIRG-006 ClinicalTrials.gov 番号:NCT00021255.)