November 1, 2012 Vol. 367 No. 18
米国の正統派ユダヤ教徒コミュニティにおける流行性耳下腺炎の集団発生
Mumps Outbreak in Orthodox Jewish Communities in the United States
A.E. Barskey and Others
米国では,流行性耳下腺炎の年間発生率が予防接種によって 2005 年までに 99%以上低下し,集団発生はほとんど報告されていなかった.しかし,2006 年に米国内のワクチン接種率の高い地域住民において大規模な集団発生があり,その後同様の集団発生が世界中で報告されている.この論文で報告する集団発生は,2009 年と 2010 年に米国の正統派ユダヤ教徒コミュニティにおいて起こったものである.
唾液腺の腫脹およびその他流行性耳下腺炎に臨床的に一致する症状を呈する症例を調査し,人口統計学的データ,臨床データ,検査データ,予防接種データを評価した.
2009 年 6 月 28 日~2010 年 6 月 27 日に,ニューヨーク市,ニューヨーク州北部の 2 つの郡,ニュージャージー州の 1 つの郡において,流行性耳下腺炎の集団発生に関連する症例 3,502 例が報告された.臨床検体が得られた 1,648 例のうち,50%が検査によって確定された.症例患者の 97%を正統派ユダヤ教徒が占めていた.罹患者は 13~17 歳の青年(全患者の 27%)と男性(同年齢層の患者の 78%)に偏っていた.予防接種の状況を確認しえた 13~17 歳の症例患者のうち,89%が流行性耳下腺炎を含むワクチン接種を 2 回受けており,8%が 1 回受けていた.伝播はユダヤ系男子校内に集中しており,そこでは生徒が 1 日に何時間も対面で議論するなど,濃厚に接触して過ごしていた.合併症は精巣炎がもっとも頻度が高く(120 例,12 歳以上の男性患者の 7%),その発生率はワクチン非接種者のほうが 2 回接種者よりも有意に高かった.
今回の集団発生の疫学的特徴から,とくに学校に通う男児における濃厚な曝露によって伝播が促進され,ワクチンによる防御能が抑制されたことが示唆される.2 回接種率が高かったために,疾患の重症度は抑えられ,それほど濃厚には曝露されない人々への伝播が減少した.