癌素因における WWP1 の機能獲得による PTEN 不活性化
WWP1 Gain-of-Function Inactivation of PTEN in Cancer Predisposition
Y.-R. Lee and Others
PTEN 過誤腫症候群(PHTS)の患者は,ホスファターゼ・テンシンホモログをコードする腫瘍抑制遺伝子(PTEN)に生殖細胞系列変異を有する.そのような変異は,カウデン症候群を含む種々の癌の遺伝的素因に関連することが示されている.しかし PHTS に関連する表現型を有する患者の大多数は,PTEN 変異検査で陰性を示している.先行研究で,われわれは E3 ユビキチンリガーゼである WWP1 が PTEN の機能を負に制御することを見出した.
2005~15 年に行った前向きコホート研究で,野生型 PTEN を有し,少なくとも国際カウデンコンソーシアム(ICC)の緩和された診断基準を満たす患者 431 例を登録した.患者は WWP1 の生殖細胞系列変異の検査を受けた.一見孤発性の癌の代表としてがんゲノムアトラス(TCGA)のデータセットと,癌の診断が報告されていない対照集団の代表として,TCGA を除外したエクソーム集成コンソーシアム(non-TCGA ExAC)のデータセット,および癌以外のゲノム集成データベース(gnomAD)を用いた.代表的な WWP1 変異の機能特性を明らかにするため,in vitro モデルとマウス in vivo モデルの両方を確立した.
まず,野生型 PTEN を有し,オリゴポリポーシスと早期発症結腸癌の症例がいる 1 家族で,生殖細胞系列の WWP1 変異の存在が確立された.一連の検証により,優性表現型としてオリゴポリポーシスをもつ非血縁患者 126 例のうち,5 例(4%)に WWP1 の生殖細胞系列変異が生じていることが示された.生殖細胞系列の WWP1 変異,とくに WWP1 K740N と N745S のアレルは,TCGA の,PHTS を有しないが PTEN 関連癌種などの孤発性癌の有病率が高い患者集団に多く認められた(オッズ比 1.5,95%信頼区間 1.1~2.1,P=0.01).細胞モデルとマウスモデルでは,優性 WWP1 変異によって機能獲得効果が生じ,それにより酵素が異常活性化し,その結果 PTEN が不活性化して,PI3K の成長促進シグナル伝達の異常活性化が引き起こされた.
PTEN 生殖細胞系列変異を有さず,多数の悪性新生物の発生素因となる疾患を有する患者を含めたこの研究で,WWP1 の,PTEN–PI3K シグナル伝達軸の直接的異常制御を介する癌感受性遺伝子としての機能を確認した.(米国国立衛生研究所ほかから研究助成を受けた.)