October 1, 2020 Vol. 383 No. 14
医師の勤務時間と性別による賃金の格差 ― プライマリケアからのエビデンス
Physician Work Hours and the Gender Pay Gap — Evidence from Primary Care
I. Ganguli and Others
医師の賃金の性差は,一部は女性の勤務時間が男性よりも少ないことに起因しているとされる場合が多いが,これまでのエビデンスは,自己申告であったことと,臨床診療報酬と診療スタイルの性別による違いに関する詳細が不足していたことから,限界がある.
全米の全支払者請求データと電子診療録のデータを用いて,2017 年のプライマリケア受診 2,440 万件の横断的解析を行い,同じ診療グループに属する女性医師と男性医師とを比較した.医師の性別を主要な独立変数とし,診療報酬,診療数,勤務日数,観察された診療時間(診療の開始から終了までの時間)などを評価項目とした.プライマリケア医(PCP),患者,診療の種類の特性と,固定効果である診療グループで補正してから,年,日,診療のレベルで多変量回帰モデルを作成した.
2017 年について,年齢,学位,専門分野,1 週あたりの勤務時間枠数で補正すると,女性 PCP は,男性 PCP よりも診療報酬が 10.9%低く(-39,143.2 ドル,95%信頼区間 [CI] -53,523.0~-24,763.4),担当した診療数が 10.8%少なく(-330.5 回,95% CI -406.6~-254.3),臨床勤務日数が 2.6%少なかった(-5.3 日,95% CI -7.7~-3.0)が,同年の観察された診療時間は男性 PCP よりも 2.6%(1,201.3 分,95% CI 184.7~2,218.0)長かった.PCP,患者,診療の特性で補正すると,1 回の診療あたり,女性 PCP の診療報酬は男性 PCP と同等であったが,患者 1 人あたりに費やす時間は 15.7%(2.4 分,95% CI 2.1~2.6)長かった.これらの結果は,患者の性別と健康状態,診療の種類と複雑さで分類したサブグループ解析においても一貫していた.
女性 PCP は同じ診療グループの男性 PCP と比較して,担当診療数が少なかったために診療報酬は低かったが,1 回の診療あたり,1 日あたり,1 年あたりの直接的な患者の診療に費やす時間は長かった.(ロバート・ウッド・ジョンソン財団から研究助成の一部を受けた.)