再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症に対するトレブルチニブ
Tolebrutinib in Nonrelapsing Secondary Progressive Multiple Sclerosis
R.J. Fox and Others
多発性硬化症の経過では,緩徐に進行する神経学的障害が生じることがあり,「障害蓄積」と呼ばれている.多発性硬化症に対する現在の疾患修飾療法は,再発に関連しない障害蓄積に対する効果が限られており,中枢神経系内の消失しない慢性的な神経炎症が一因と考えられている.トレブルチニブ(tolebrutinib)は,血液脳関門通過性経口ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬であり,末梢神経系,中枢神経系の両方の骨髄細胞(ミクログリアなど)と B 細胞を標的とする.再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症に対して承認されている治療はない.
第 3 相二重盲検プラセボ対照イベント主導型試験で,再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症の参加者を,トレブルチニブ(60 mg を 1 日 1 回)を投与する群と,マッチさせたプラセボを投与する群に 2:1 の割合で無作為に割り付けた.主要評価項目は 6 ヵ月以上持続する確定された障害進行とし,生存時間(time-to-event)解析で評価した.
1,131 例が無作為化され,754 例がトレブルチニブ群,377 例がプラセボ群に割り付けられた.追跡期間中央値は 133 週であった.6 ヵ月以上持続する障害進行が確定された参加者の割合は,トレブルチニブ群のほうがプラセボ群よりも低かった(22.6% 対 30.7%,ハザード比 0.69,95%信頼区間 0.55~0.88,P=0.003).重篤な有害事象は,トレブルチニブの投与を受けた参加者の 15.0%とプラセボの投与を受けた参加者の 10.4%に発現した.正常範囲上限の 3 倍を超えるアラニンアミノトランスフェラーゼの上昇は,トレブルチニブの投与を受けた参加者の 4.0%とプラセボの投与を受けた参加者の 1.6%に認められた.
再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症の参加者のうち,トレブルチニブの投与を受けた参加者は,プラセボの投与を受けた参加者よりも障害進行のリスクが低かった.(サノフィ社から研究助成を受けた.HERCULES 試験:ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT04411641)