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(木)

論文著者に聞く NEJM Evidenceへの
投稿・掲載のリアル

投稿プロセス

奥村

これからは科学的にインパクトの高いジャーナルへの投稿プロセスについて伺いたいと思います。先生は新しい病態生理を明らかにされ、新知見を持ってNEJMに投稿されたわけですが、最初からNEJMレベルの雑誌を目指されたのですか。

杉山

NEJMは臨床診療を変える雑誌です。臨床の治療方針や概念を変えるような、疾患としての考え方を変えるようなインパクトのあるテーマであれば、NEJMが興味を持ってくれることは理解していました。2型糖尿病の患者において今回我々が明らかにした病態を欧米で診ることはほとんどありませんでしょうから、欧米の方はおそらく興味がないのではないかと思いました。しかし私たちアジア人も世界にはたくさん住んでいて、アジア人の糖尿病という病態がどのような裾野を持っているか? 非肥満2型糖尿病患者が最近注目されていることを考えると、2型糖尿病における新しい臨床アプローチ、病態概念を提示できるのではないかと考え、まずNEJMに投稿することを決めました。

奥村

まだ新しいNEJM Evidenceへのtransferは、そのまま受け入れられたのですか。

杉山

NEJMレビュアーからのコメントとは別に、NEJM Evidenceエディターから「レビュアーのコメントにはまとめて答えてくれればよいので、transferした先で評価させてほしい」というコメントがあり、transferする先のNEJM Evidenceのスタッフが高く評価してくれている可能性を期待しました。

奥村

NEJMとしても採用したい、だけど先生がおっしゃるように欧米人では果たしてどうだろうかというところで、transferになったのかもしれませんね。

NEJM Evidenceは創刊されたばかりですが、先生はこの雑誌をご存じでしたか。

杉山

2021年10月にNEJMに投稿したときにはまだNEJM Evidenceは創刊されておらず、ホームページに2022年1月からの新雑誌創刊の告知が小さく出ているだけでした。実際にtransferになってからNEJM Evidenceの動画紹介などを見て、NEJMだけではカバーしきれないところを、NEJMのグループとして情報発信していきたいのだなと感じました。

奥村

NEJM本誌のaccept率はものすごく低い。掲載数の制約がありますから。門戸を広げて姉妹誌を持つのは自然な流れで、そこに先生の論文がtransferされたのは、やはりこの知見が重要であると考えられたからだと思います。

レビュアーとエディターからのコメントが多数あり、答えるのが大変でしたね。

杉山

2人の外部レビュアーの方からのコメントはほとんど重複していましたので、まとめてNEJM Evidenceのサブエディターへ送り返しました。すぐにprovisional acceptanceの返事がありましたが、Editor-in-ChiefのDrazen先生から来たコメントが最終的には140~150ほどありました。論文の構成を入れ替える指示があったり、「このデータはSupplementに移してTableをつくり直しなさい」、「Figureのつくり方はこうしなさい」などと細かく指示されたりしました。最初に仮説設定していなかった統計データは全部post hoc analysisとして区別してきちんと書きなさいとも言われました。

RCTのように統計が難しいことはありませんでしたが、significantという言葉をとにかく使うなと言われたことが印象的でした。「私たちは別に統計学的に有意だということを求めているわけではなく、そういう患者さんたちが存在していて、それをあなたが今回提示した。それが主たるメッセージでしょう」とずっと言われました。これまでは「AとBは有意差がある」という論文をよく書いてきましたが、そうではない論文の書き方、データの解釈・提示の仕方を強く求められました。

奥村

僕が2020年にELDERCARE-AF試験をNEJMに発表したときも、投稿した論文を非常に細かく見ていただきました。僕の場合は当時のDeputy editorのJarcho先生によって内容や順番を変えられたり、Supplementに移せと指示されたり、かなり書き換えられました。NEJMやJAMAのレベルになると、雑誌のスタイルを非常に重視していて、彼らの科学性、ポリシーに合わせた内容にどんどん書き換え、よりよいものをつくり出そうとする、そのような姿勢と努力を僕は強く感じましたけれども、先生もそうでしょう。

杉山

まさにそうだと思います。ここまで関与するのかという感じがあります。私のreviseは年末年始にかかったわけですけれども、Drazen先生がいつコメントを書いたかは履歴が残っていました。元日だけはコメント記録はなかったですが、1月2日以降もコメントを毎晩書いていらっしゃいました。自分の論文のようなつもりで書いてくれていたのですね。

奥村

自分がsenior authorであるかのようにね。僕もこれまでにCirculationやJACCなどに多くの論文を投稿してきましたが、さらに質の高いジャーナルはそういう点でも違うなということを僕も実感しました。

奥村

さて、ここで視聴者の皆さんからいただいている質問をご紹介させていただきます。

「NEJM Evidenceは創刊されて10ヵ月になります。先生から見て、実際、質の高い論文が掲載されていますでしょうか。印象をお伺いしたいです」というご質問です。

杉山

私たちが知りたいと思う統計学的な事柄や、RCTの考え方、データの見方など、興味深い論文が掲載されています。いままでの雑誌にはなかったような内容も非常に多く含まれていると感じます。

奥村

これは先ほどの質問と少し重複するかもしれません。「NEJMに投稿するというプランはいつ頃立てられましたか。研究遂行の段階、あるいは最初からNEJMを目指されていたのでしょうか」。

杉山

日本には欧米とは違うタイプの2型糖尿病患者さんがいて、是非とも欧米の方たちに知らせたいという思いがありました。どこを掘ってももう何も新しいものは出ないと考えられていた糖尿病臨床研究においてまだ知られていないことが隠れていたということは、新しい臨床姿勢の展開につながる可能性があり、まさにNEJMが目指しているスコープに合うと思い、NEJMに投稿できる、投稿したいと考えました。

奥村

この論文はNEJMのスコープに合う。だから、姉妹誌でもなんとかNEJMからパブリッシュしたい。彼らのそういう意思を感じました。

これは少し難しいお答えになる質問かもしれません。「糖尿病領域において、循環器内科医と糖尿病の専門医が、日常臨床あるいは研究でどのように協同してアプローチしていけばよいでしょうか」。

杉山

私が10年以上前に大学にいた頃、2型糖尿病は大血管疾患、糖尿病は血管病と考えられており、その考えに基づいた臨床研究・治療が行われていました。スタチンが登場し、降圧管理も改善し、SGLT2阻害薬やGLP-1RAも登場した現状では、欧米ですら糖尿病から発症する心血管疾患が減少してきています。10年前、20年前の循環器と糖尿病というリンクからは様変わりしてきています。いま臨床研究を始めるなら、数年後にその結果を発表することになりますから、これから数年後の循環器と糖尿病の先生方が注目しているであろう領域を予測して研究する必要があると思います。

糖尿病専門医の先生は、心血管疾患発症よりも血糖管理に主として注目し診療されます。循環器疾患患者の半数近くは糖尿病患者ですし、糖尿病の患者さんも循環器疾患を発症することがありますので、日常臨床では糖尿病専門医の先生と循環器内科医が必ずコラボレーションしなければならず、臨床連携はもちろん重要です。以前は糖尿病患者に心筋梗塞や心血管疾患が多く発症するために糖尿病の先生方は虚血性心疾患、動脈硬化に注意してこられたのでしょうけれども、今後は心不全も重要になるでしょう。糖尿病、循環器疾患診療に対する考え方、アプローチの違いをディスカッションしながら研究を発展させることもできると思います。