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(木)

論文著者に聞く NEJM Evidenceへの
投稿・掲載のリアル

奥村

具体的な質問もあります。「論文作成で英文校正など編集を行う民間の会社に依頼されましたか」。

杉山

はい。私も英語はあまり上手ではないので、必ず一度は依頼するようにしております。

奥村

これは僕が先ほど質問したことと重複しますが、「インスリンクリアランスが亢進していると予測される、BMIも尿酸値も血中インスリン濃度も低い患者さんへの治療で、運動やメトホルミンなどは病態を悪くする可能性があると思いますが、どうでしょうか」。

杉山

先生がご推察されるのは、運動によりインスリンクリアランスがもっとよくなると、血中インスリン濃度がさらに下がってしまい、糖代謝が悪くなるのではないかということですけれども、それはちょっと違います。インスリンクリアランスが高くなるほど、インスリン感受性はもっと高くなります。運動することで筋肉はインスリン非依存性に血糖を吸収し、インスリンクリアランスは上がり、血中インスリン濃度は下がり、その裏でインスリン感受性がさらに改善し上がります。総合的に糖代謝は改善される方向に向かいます。メトホルミンはインスリンクリアランス亢進のほとんどの患者さんで糖代謝を改善します。

私が熊本大学循環器内科にいたときには、先代の泰江弘文教授から「狭心症で入院した患者さんには全例に75gOGTTを実施して、尿中の1日C-ペプチド排泄量を測定し、糖尿病の病態を必ず評価しなさい」と言われていました。データを確認するうちに、血中インスリン濃度が空腹時で0.5〜1.0程度しかない(超低インスリン血症)人がいることに気付きました。それでも正常血糖の痩せた日本人なのです。ですから、インスリン感受性がsuperに亢進していて、血中にインスリンがほとんどなくても正常血糖を維持できている方が日本人にはいることは知っていました。糖尿病専門医の先生にこの病態を尋ねても、「それは何か検査過程での間違いじゃない?」などと言われていたわけですが。

少し過体重の方が運動で脂肪を落とすのは悪いことではなく、インスリン感受性は改善し糖代謝がよい方向に向かうことは外来患者さんで実際に経験しております。

奥村

「それは間違いじゃない?」というところにヒントがあるのでしょうね。

杉山

私は糖尿病の領域は門外漢ですので、いままでの既成概念ではありえないことを言うのにあまり抵抗がなかったのだろうと思います。

奥村

続いての質問です。「これまでNEJM本誌には原著、Letterを含めて何度か挑戦されていらっしゃいますでしょうか」。

杉山

若い人たちと研究をするなかで、「NEJMに投稿したい」と言われれば、どんな研究でも投稿させるようにしていました。でも、投稿したところでInternal Reviewで返ってくるわけです。External Reviewまで進んだことはいままでに3、4回でしょうか。3、4回はレビューのフルコメントが返ってきたわけですけれども、先に進むことはありませんでした。実際私がこれまでNEJMに投稿した論文に、臨床を大きく変えるようなインパクトのある論文があったかというと、あまりなかったのかなと思いますが。

奥村

最後の質問です。「杉山先生と奥村先生には熊本にいらっしゃるという共通点があります。熊本という地域やそこにいる人たちの人柄に、研究を促進する何かがあるのでしょうか」。いかがですか、先生。

杉山

私は熊本大学循環器内科で泰江弘文先生、奥村謙先生、久木山清貴先生から薫陶、指導を受けた人間ですし、奥村先生は泰江教授から薫陶を受けられたと思います。学生時代に、成人T細胞白血病がご専門の高月清教授から「1人目の変な患者さんを診たら覚えなさい。2人目を診たら、あんな人がいたなと思い出しなさい。3人目を診たら、それは1つの疾患だから、きちんと研究を始めなさい」と言われたことを覚えています。私は幸いにも多くの諸先輩、先生方に恵まれまして、臨床姿勢、研究の仕方、論文の書き方などを学ばせていただきました。そのおかげで現在でもそういうことのまねごとの継続ができているのかなと思っております。

奥村

師事される先生、我々を指導していただける先生にめぐり会えるかが非常に重要なポイントになるかもしれませんね。そういう意味で僕たちは熊本にいて恵まれていましたね。

最後に先生からメッセージをお願いします。

杉山

臨床診療というのは、私たち医師が日々従事している仕事であると同時に、患者さんに喜ばれるような臨床効果を検証し実践する場です。そこには研究のテーマが隠れていて、興味深いこと、好奇心をかき立てられることがあふれています。そのことを思い出して、臨床を楽しんでいただきたいです。そして症例報告や論文を書けたらよいですね。

患者さんの病態や治療については、欧米からどんどん膨大な臨床データが発信されてきますが、いま目の前にいる患者さんの病態は、そのような臨床データから得られたものとは違うかもしれない。患者さんごとに違うアプローチをする必要があるかもしれないことを考えていただきたいと思っています。

今回の私の論文をもとにして、インスリンクリアランスの亢進が多くの日本人2型糖尿病患者に存在することを念頭に置きながら臨床診療を行い、今後新しい臨床研究領域が展開していけばうれしいです。それが、現在私が対峙している糖尿病患者さんたちにとってのよりよい診療に結びつくきっかけになることを願っています。

奥村

大変熱い思いを語っていただきまして、ありがとうございました。