女性および男性における HIV-1 の初期血漿中 RNA 量と AIDS への進行
Initial Plasma HIV-1 RNA Levels and Progression to AIDS in Women and Men
T.R. STERLING AND OTHERS
ヒト免疫不全ウイルス 1 型(HIV-1)に感染した男性と女性において,血漿中のウイルス RNA 量(ウイルス量)に差があるのかどうかについては明らかにされていない.男性では,セロコンバージョン後の初期ウイルス量によって,後天性免疫不全症候群(AIDS)に進行する可能性を予測することができるが,女性では,この二つの関係については評価されていない.そのため,現在は,女性にも男性にも一様に,抗レトロウイルス療法の開始に関するガイドラインが適用されている.
1988~98 年にわたって,HIV-1 セロコンバージョンが確認された後,前向きの追跡調査を行った薬物注射の常用者の男性 156 例と女性 46 例に対して,その後約 6 ヵ月間隔で,ウイルス量と CD4 +リンパ球数の測定を行った.
初期ウイルス量の中央値は,男性が 50,766 コピー/mL であったのに対して,女性は 15,103 コピー/mL にすぎなかった(p<0.001).これに対して,初期の CD4+数の中央値には,性別による有意差は認められなかった(男性 659/mm3,女性 672/mm3).HIV-1 感染から AIDS へ進行した男性は 29 例,女性は 15 例で,AIDS への進行のリスクにも性別による有意差は認められなかった.ウイルス量が 1 log(底を 10 とした対数スケール)増加するごとの AIDS への進行のハザード比は,男性が 1.55(95%信頼区間,0.97~2.47),女性が 1.43(95%信頼区間,0.76~2.69)であった.初期ウイルス量の中央値は,AIDS を発症した男性では 77,822 コピー/mL であったのに対し,AIDS を発症しなかった男性では 40,634 コピー/mL であった;これらに対応する女性の値は,17,149 コピー/mL および 12,043 コピー/mL であった.したがって,ウイルス量が 20,000 コピー/mL に達したら治療を開始すべきであるという勧告では,今回のわれわれの研究に参加した男性の 74%が,セロコンバージョン後の最初の来院時に治療適格例になるのに対して,女性の治療適格例は 37%にすぎない(p<0.001).
初期の HIV-1 RNA 量は,男性よりも女性で少なかったにもかかわらず,男性と女性の AIDS への進行率は同程度であった.したがって,CD4+リンパ球数ではなくウイルス量に基づいた治療ガイドラインでは,抗ウイルス治療を受けられる患者の適格性に性別による差が生じてくるはずである.