March 25, 2004 Vol. 350 No. 13
致死的なサーファクタント欠乏の新生児における ABCA3 遺伝子変異
ABCA3 Gene Mutations in Newborns with Fatal Surfactant Deficiency
S. Shulenin and Others
肺サーファクタントは,脂質に富む単層を形成して肺の気道表面を覆う物質で,肺の適切な拡張と肺機能にとって不可欠である.サーファクタントは II 型肺胞細胞によって産生され,層板小体として知られる細胞小器官内に蓄えられて,エキソサイトーシスにより分泌される.ATP 結合カセット輸送蛋白 A3(ABCA3)の遺伝子は II 型肺胞細胞で発現し,その生成蛋白は層板小体に局在することから,サーファクタントの代謝に重要な役割を果していることが示唆される.
病因不明の重症新生児サーファクタント欠乏の,人種・民族的に多様な乳児 21 例から血液を採取して DNA を抽出し,ABCA3 遺伝子をコードしている各エクソンの配列を決定した.患者 4 例の肺組織を高分解能の光学顕微鏡および電子顕微鏡で調べた.
ABCA3 遺伝子のナンセンス変異,フレームシフト変異,高度に保存された領域およびスプライス部位における変異が,患者 21 例中 16 例(76%)で確認された.変異がみられた 5 血縁家族において,兄弟姉妹の各ペアは同一の変異に対して同型接合で,それぞれの変異は 1 家族でのみ認められた.ナンセンス変異,スプライス部位変異,ミスセンス変異など,異なる ABCA3 変異がある患者 4 例で肺組織の超微細構造を解析したところ,層板小体に顕著な異常がみられた.
ABCA3 遺伝子の変異は,新生児において致死的なサーファクタント欠乏を引き起す.ABCA3 は層板小体の適切な形成やサーファクタント機能に欠かせない蛋白であり,他の肺疾患における肺機能にも重要である可能性がある.ABCA3 は,マクロファージや光受容体細胞でリン脂質を輸送する蛋白 ABCA1,ABCA4 に密接に関係することから,サーファクタントのリン脂質代謝にも役割を果している可能性がある.