August 13, 2015 Vol. 373 No. 7
安定虚血性心疾患と糖尿病を合併している患者におけるトロポニンと心イベント
Troponin and Cardiac Events in Stable Ischemic Heart Disease and Diabetes
B.M. Everett and Others
心筋トロポニン値は,急性冠症候群患者において,緊急血行再建が有効である可能性がある患者の同定に用いられる.われわれは,安定虚血性心疾患患者において,迅速な冠血行再建が同様に有効である可能性がある心血管イベントのリスクが高い例の同定に,心筋トロポニン値を利用することができるという仮説を立てた.
2 型糖尿病と安定虚血性心疾患を合併し,「2 型糖尿病におけるバイパス血管形成血行再建の検討(BARI 2D)」試験に登録された 2,285 例を対象に,高感度アッセイによりベースラインの心筋トロポニン T 値を測定した.トロポニン T 値と,心血管系の原因による死亡,心筋梗塞,脳卒中から成る複合エンドポイントとの関連を検討した.続いて,トロポニン T 値が異常(≧14 ng/L)であった患者では,正常(<14 ng/L)であった患者と比較して,迅速な血行再建に無作為に割り付けられた場合に複合エンドポイントの発生率が低下するかどうかを評価した.
2,285 例のうち,ベースラインでトロポニン T 値が検出可能(≧3 ng/L)であったのは 2,277 例(99.6%)であり,897 例(39.3%)にトロポニン T 値の異常が認められた.複合エンドポイントの 5 年発生率は,ベースラインのトロポニン T 値が異常であった患者では 27.1%であったのに対し,正常であった患者では 12.9%であった.心血管危険因子,糖尿病の重症度,心電図異常,冠動脈の解剖学的構造について補正したモデルでは,トロポニン T 値が異常であった患者の複合エンドポイントのハザード比は 1.85(95%信頼区間 [CI] 1.48~2.32)であった(P<0.001).トロポニン T 値が異常であった患者のあいだで,迅速な血行再建に無作為に割り付けられた例では,薬物治療のみを行った例と比較して,複合エンドポイントの発生率に有意な低下は認められなかった(ハザード比 0.96,95% CI 0.74~1.25).
2 型糖尿病と安定虚血性心疾患を合併している患者において,心筋トロポニン T 値は,心血管系の原因による死亡,心筋梗塞,脳卒中の独立した予測因子であった.トロポニン T 値 14 ng/L 以上の異常値からは,迅速な冠血行再建への無作為割付けが有効な患者のサブグループは同定されなかった.(米国国立衛生研究所, Roche Diagnostics 社から研究助成を受けた.BARI 2D 試験:ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT00006305)