欧州における移民集団でのジフテリア菌の集団発生
Corynebacterium diphtheriae Outbreak in Migrant Populations in Europe
A. Hoefer and Others
欧州の移民一時収容施設では,2022 年夏からジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)感染症例の急増が認められた.症例の大部分は皮膚感染であったが,呼吸器感染も一部あり,1 例の死亡が報告された.この集団発生の臨床的特徴,疫学的特徴,微生物学的特徴を評価する目的で,汎欧州コンソーシアムが設立された.
2022 年 1 月~11 月に欧州 10 ヵ国で報告された毒素産生性ジフテリア菌感染症例を評価した.患者との面接により出身国や入国経路に関するデータを得た.患者から得た細菌分離株で,全ゲノムシーケンシングと抗菌薬感受性試験を実施した.分離株と分離株の抗菌薬耐性遺伝子との系統発生的関係を評価した.
研究期間中,362 例で,毒素産生性ジフテリア菌分離株 363 株が同定された.臨床データを入手しえたのは 346 例(95.6%)で,268 例(77.5%)が皮膚ジフテリア,53 例(15.3%)が呼吸器ジフテリア(11 例 [3.2%] に偽膜が認められた)であり,9 例(2.6%)には呼吸器と皮膚両方の症状があった.4 つの主要な遺伝子クラスターが同定され,この集団発生が多クローン性であることが示された.ermX 遺伝子( エリスロマイシン耐性をコード)と,pbp2m 遺伝子と blaOXA-2 遺伝子(βラクタム耐性をコード)が,分離株の一部で検出された.ermX を有する分離株はエリスロマイシン耐性であった.pbp2m を有する分離株はペニシリン耐性であったが,アモキシシリン感受性であった.4 つの遺伝子クラスターのもっとも近い共通祖先は,クラスター内のゲノム変化に基づき,2017~20 年に存在していたものと推定された.
欧州の複数国にジフテリア菌分離株の各遺伝子クラスターが分布していることは,国境を越える拡大が繰り返されたことを示している.移民における多数のジフテリア菌感染者は,とくに抗菌薬耐性の表現型が一次治療の有効性を脅かしていることを考慮すれば,懸念を生じさせている.(バイエルン州保健・介護・予防省ほかから研究助成を受けた.)