強力な抗レトロウイルス療法を受けている患者の末梢血単核細胞における HIV-1 転写の持続性
Persistence of HIV-1 Transcription in Peripheral-Blood Mononuclear Cells in Patients Receiving Potent Antiretroviral
M.R. FURTADO AND OTHERS
強力な抗レトロウイルス療法は,ヒト免疫不全ウイルス 1 型(HIV-1)による感染症を管理することはできるが,長期に生存している感染力のあるウイルス巣が CD4+ T 細胞に残存している.
そこで,われわれは,細胞に結合したウイルスの DNA と,HIV-1 の複製に必要不可欠なメッセンジャー RNA(mRNA)を定量することによって,このウイルス巣についての検討を行った.長期に残存している HIV-1の感染症の患者で,強力な抗レトロウイルス薬による治療中,20 ヵ月間以上,血漿中 HIV-1 の RNA 量が検出限界以下になった 5 例の男性から,約 6 ヵ月ごとに,末梢血単核球検体を採取した.
治療前には,血漿中の HIV-1 の RNA 量は,細胞に結合し DNA に組み込まれていない HIV-1 DNA 量と,スプライスされていないウイルス mRNA 量に相関していた.治療後になると,血漿中の HIV-1 RNA 量は,2.7 log 以上も減少して,検出限界以下になった.細胞に結合し DNA に組み込まれた HIV-1 および組み込まれていない HIV-1 の DNA 量とmRNA 量の減少は,2 段階で起こった.第 1 段階は治療を開始してから 500 日目までに起こり,この段階の特徴は,ウイルス DNA 量と mRNA 量が,検出限界以下にまでにはならないものの,大きく減少するということであった.細胞に結合し組み込まれていないウイルスの DNA 量,宿主 DNA に組み込まれたプロウイルスの DNA 量,およびスプライスされていないウイルス mRNA 量は,1.25~1.46 log 減少した.第 2 段階はその後の治療の 300 日目まで,あるいはそれ以降に起こり,この段階では,HIV-1 DNA 量とスプライシングを受けてない mRNA 量が定常状態に達するとことが特徴であった.最初の急激な低下後に,複数回のスプライシングを受けたウイルス mRNA に対するスプライシングを受けていないウイルス mRNA の比(活動的ウイルス転写の指標)は安定した値となり,各測定時点において 0 よりも大きな値のままであった.
強力な抗レトロウイルス薬による治療を行い,しかも血漿中 HIV-1 RNA 量が20 ヵ月間以上にもわたって検出限界以下に抑えられているにもかかわらず,末梢血の単核細胞では HIV-1 の転写が行われ続けている.半定常状態に達した HIV の DNA 量と mRNA 量が,最終的に,それ以降の長期治療によって消失しない限り,今回の結果は,現在の治療では HIV-1 感染症を撲滅できないということを示唆している.