米国国立衛生研究所による研究費の提供と疾病の負荷との関連
The Relation between Funding by the National Institutes of Health and the Burden of Disease
C.P. GROSS, G.F. ANDERSON, AND N.R. POWE
米国国立衛生研究所(the National Institutes of Health : NIH)から提供されている疾病を特定された研究費の額は,体系的かつ一定の基準をもって,社会におけるその疾病の負荷と比較すべきであるということが,医学会(the Institute of Medicine)から提案されている.
1996 年の疾病特定研究費の予算額と,疾病の負荷を測定する六つの評価尺度のデータを比較する横断的調査を実施した.これらの評価尺度は,1994 年の全死亡率,生命損失年,および入院日数と,1990 年の発病率,有病率,および障害補正生存年(DALY)(1 障害補正生存年は,その疾病によって失われた健康な生命の 1 年と定義されている)であった.これらの評価尺度を回帰分析の説明変数として用いて,研究費の予測額を算出し,それを研究費の実際の額と比較した.
NIH からの研究費の額と,それぞれの病態や疾病の発病率,有病率,あるいは入院日数とのあいだには関連性は認められなかった(それぞれ p = 0.82,p = 0.23,および p = 0.21).死亡者数(r = 0.40,p = 0.03)と生命損失年(r = 0.42,p =0.02)には研究費との弱い関係が認められ,障害補正生存年には研究費の予測額との強い関係が認められた(r = 0.62,p < 0.001).これらの何らかの関連性が認められた三つの評価尺度を用いて研究費の期待値を算出した結果,算出に用いた評価尺度によって,疾病の研究費の適切性についての結論が異なってくる疾病があった.しかしながら,後天性免疫不全症候群,乳癌,糖尿病,および痴呆については,どの評価尺度を算出根拠の基準として使用したかということにかかわらず,すべての疾病が比較的充分な研究費を受けていた.逆に,慢性閉塞性肺疾患,周産期の病態,および消化性潰瘍の研究に対しては,比較的少ない研究費しか提供されていなかった.
疾病の研究に対して NIH から提供されている研究費の額は,その疾病の負荷と関連している; しかしながら,疾病特定研究費の額の適切性については,疾病の負荷の評価尺度が異なると,その結論が違ってくることがある.