August 19, 1999 Vol. 341 No. 8
妊娠中の母親の甲状腺ホルモン欠乏とその小児における神経心理学的発達
Maternal Thyroid Deficiency during Pregnancy and Subsequent Neuropsychological Development of the Child
J.E. HADDOW AND OTHERS
妊婦とその胎児に甲状腺ホルモン欠乏が同時に発症すると,その小児の神経心理学的発達に悪影響を及ぼす.しかしながら,この発達障害は,妊娠中の母親だけに甲状腺機能低下症が発症したときにも起るものなのかどうかはわかっていない.
1987 年 1 月~1990 年 3 月までに妊娠していた女性 25,216 例から採取保存されていた血清検体を用いて,1996 年および 1997 年に甲状腺刺激ホルモンの測定を行った.そして,この甲状腺刺激ホルモンの血清中濃度が,これらすべての妊娠女性の測定値の 99.7 パーセント点以上の値であった 47 例の女性,98~99.6 パーセント点の値であり,なおかつチロキシンが低値であった 15 例の女性,およびこれらの女性とマッチした正常値の 124 例の女性を抽出した.これらの女性の 7~9 歳の小児で,新生児の時点では甲状腺機能低下症が認められていなかった小児に対して,知能,注意,言語,読解能力,学校での行動,および視覚–運動能力に関連した 15 種類の検査を実施した.
血清甲状腺刺激ホルモンが高値であった 62 例の女性から産まれた子供は,15 種類のすべての検査の結果がわずかに悪かった.これらの小児のウェクスラー児童用知能評価尺度(WISC:Wechsler Intelligence Scale for Children),第 III 版,で評価した知能指数(IQ)スコアの総合得点は,124 例のマッチした対照女性の子供よりも,平均で 4 ポイント低かった(p=0.06);このスコアが 85 以下であったのは,これらの小児では 15%であったのに対して,対照小児では 5%であった.甲状腺ホルモン欠乏症の女性 62 例のうち,本研究の対象となった妊娠期間中に治療を受けていなかったものは 48 例であった.これらの女性の子供の IQ スコアの総合得点は,124 例のマッチした対照女性の子供よりも,平均で 7 ポイント低かった(p=0.005);これらの小児の 19%が 85 以下のスコアであった.研究の対象となった妊娠の 11 年後の時点において,無治療の女性の 64%と,マッチした対照女性の 4%で甲状腺機能低下症が確認された.
妊娠女性における確定診断が下されていない甲状腺機能低下は,その胎児に悪影響を与える可能性がある;それゆえ,妊娠中の甲状腺ホルモン欠乏のスクリーニングは是認されるかもしれない.