成人における褐色脂肪組織の同定とその意義
Identification and Importance of Brown Adipose Tissue in Adult Humans
A.M. Cypess and Others
肥満の原因は,エネルギーの摂取と消費の不均衡にある.げっ歯類とヒト新生児では,褐色脂肪組織が脱共役蛋白 1(UCP1)の発現を介して熱を産生しエネルギー消費量の調節に関与しているが,成人では生理的意義を有しないと考えられている.
さまざまな診断上の理由で 1,972 例の患者に施行された 3,640 件の連続する 18F-フルオロデオキシグルコース(18F-FDG)PET/CT 像を解析し,褐色脂肪組織と推定される組織の多量の蓄積があるかどうかを調べた.その蓄積の定義は,直径 4 mm を超え,CT で脂肪組織の濃度を示し,18F-FDG の最大標準化取込み値が 2.0 g/mL 以上で代謝活性が高いことを示す組織の集積とした.臨床指標を記録し,検査日をマッチさせた対照群と比較した.外科手術を受けた患者の頸部・鎖骨上部の生検標本について,UCP1 の免疫染色を行った.
PET/CT により,前頸部から胸部にかけて多量の褐色脂肪組織の蓄積が同定された.この領域の組織では UCP1 免疫染色陽性の多房性脂肪細胞が認められ,褐色脂肪組織であることが示された.PET/CT で陽性所見を示したのは,女性 1,013 例中 76 例(7.5%),男性 959 例中 30 例(3.1%)であり,女性と男性の比率は 2:1 を上回った(P<0.001).また,女性では褐色脂肪組織が大きく,18F-FDG の取込み率が高かった.褐色脂肪組織が検出される確率は,年齢(P<0.001),検査時の外気温(P=0.02),β 遮断薬の使用(P<0.001),高齢患者の場合体格指数(BMI)(P=0.007)と,逆相関を示した.
成人において,機能的に活発な褐色脂肪組織が存在する特定の領域が認められた.その頻度は女性のほうが男性よりも高く,18F-FDG PET/CT を用いることで,その領域を非侵襲的に定量することが可能であると考えられる.もっとも重要なのは,褐色脂肪組織の量は,とくに高齢者では BMI と逆相関の関係にあるということであり,このことから成人の代謝における褐色脂肪組織の潜在的役割が示唆される.