ChAdOx1 nCoV-19 ワクチン接種後の血栓性血小板減少症
Thrombotic Thrombocytopenia after ChAdOx1 nCoV-19 Vaccination
A. Greinacher and Others
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス 2(SARS-CoV-2)のスパイク蛋白を抗原としてコードする遺伝子組換えアデノウイルスベクターを用いたワクチン(ChAdOx1 nCoV-19,アストラゼネカ社)の接種後に,まれな血栓イベントと血小板減少症が生じている.このまれな凝固障害の成因解明に,より多くのデータが必要とされた.
ChAdOx1 nCoV-19 ワクチン接種後に血栓症または血小板減少症を発症した,ドイツとオーストリアの 11 例の臨床像,および臨床検査値の特徴を検討した.抗血小板第 4 因子(PF4)–ヘパリン複合体抗体を同定するために標準的な酵素免疫測定法(ELISA)を用い,さまざまな反応条件下で血小板を活性化する抗体を同定するために修正血小板活性化検査(PF4 強化血小板活性化検査)を用いた.PF4 強化血小板活性化検査は,抗 PF4–ヘパリン抗体 ELISA で陽性であった 4 例に行った後,ワクチンに関連する血栓イベントが発生し,抗 PF4–ヘパリン抗体 ELISA によるスクリーニングで陽性であった別の 24 例の血清検体でも行った(計 28 例).
血栓症または血小板減少症を発症した 11 例のうち,9 例が女性であり,年齢中央値は 36 歳(22~49)であった.致死的頭蓋内出血が発生した 1 例を除く全例で,接種後 5~16 日以降に血栓イベントが 1 件以上発生した.血栓イベントが 1 件以上発生した 10 例のうち,9 例に脳静脈血栓症,3 例に腹腔内静脈血栓症,3 例に肺塞栓症,4 例にその他の血栓症が認められ,6 例が死亡した.5 例に播種性血管内凝固症候群が認められた.症状発現前にヘパリン投与を受けた患者はいなかった.抗 PF4–ヘパリン抗体が陽性であった 28 例は全例,ヘパリン非依存下,PF4 存在下の血小板活性化検査で陽性であった.血小板の活性化は,高濃度ヘパリン,Fc 受容体遮断モノクローナル抗体,免疫グロブリン(10 mg/mL)により抑制された.さらに,2 例の血清から固定化 PF4 または PF4–ヘパリンによりアフィニティ精製した抗体においても,PF4 依存下での血小板活性化が確認された.
ChAdOx1 nCoV-19 ワクチンの接種は,血小板を活性化する抗 PF4 抗体が介在する,免疫性血栓性血小板減少症をまれに発症させる可能性があり,その臨床像は自己免疫性のヘパリン起因性血小板減少症と類似している.(ドイツ研究振興協会から研究助成を受けた.)