April 13, 2023 Vol. 388 No. 15
人種と社会階級の交点でみる大気汚染と死亡率
Air Pollution and Mortality at the Intersection of Race and Social Class
K.P. Josey and Others
黒人のアメリカ人は,白人のアメリカ人よりも,微小粒子状物質(空気動力学径が 2.5 μm 以下の粒子 [PM2.5])を含む大気汚染への年間曝露量が高く,健康への影響を受けやすい可能性がある.低所得のアメリカ人もまた,高所得のアメリカ人よりも PM2.5 汚染の影響を受けやすい可能性がある.人種と社会経済的地位の両方で「取り残された(周縁化された)」と分類される部分集団の,PM2.5 曝露量と死亡率の曝露–反応曲線に関する情報が不足しているため,米国環境保護庁が PM2.5 基準の規制を策定する際の情報源となる重要なエビデンスがない.
2000~16 年に 65 歳以上であった 7,300 万人の,6 億 2,300 万人年のメディケアデータを解析し,人種(黒人 対 白人)と所得(メディケイドに適格 対 不適格)の両方で定義される部分集団における,年間 PM2.5 曝露量と死亡率との関連を推定した.
集団全体では,PM2.5 曝露量が低いことは,死亡率が低いことと関連したが,周縁化された部分集団では PM2.5 曝露量が低いほど,得られる利益が大きくなると考えられた.たとえば,PM2.5 が 12 μg/m3 から 8 μg/m3 に低下した場合のハザード比は,高所得の白人部分集団では 0.963(95%信頼区間 [CI] 0.955~0.970)であったのに対し,周縁化された部分集団におけるハザード比はこれより低く,高所得の黒人部分集団で 0.931(95% CI 0.909~0.953),低所得の白人部分集団で 0.940(95% CI 0.931~0.948),低所得の黒人部分集団で 0.939(95% CI 0.921~0.957)であった.
高所得の黒人,低所得の白人,低所得の黒人は,高所得の白人よりも PM2.5 曝露量が低いほど得られる利益が大きいと考えられる.これらの結果は,健康の不公平性を評価する際に,人種と所得を併せて考えることの重要性を示している.(米国国立衛生研究所,アルフレッド・P・スローン財団から研究助成を受けた.)