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August 31, 2023 Vol. 389 No. 9

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鎌状赤血球症を治療するための CRISPR-Cas9 による HBG1 および HBG2 プロモーターの編集
CRISPR-Cas9 Editing of the HBG1 and HBG2 Promoters to Treat Sickle Cell Disease

A. Sharma and Others

背景

鎌状赤血球症は,成人ヘモグロビンのβグロビンサブユニットの異常により引き起こされる.鎌状ヘモグロビンが低酸素下で重合すると,変形した赤血球が生成され,溶血と血管閉塞が生じ,進行性の臓器障害,早期死亡にいたる.赤血球中の胎児ヘモグロビン濃度が高ければ,鎌状赤血球症の合併症を防ぐことができる.OTQ923 は,クラスター化された,規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し(CRISPR)–Cas9 で編集された CD34 陽性造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)産物であり,HBG1 および HBG2(γグロビン)遺伝子プロモーターを標的として破壊し,赤血球子孫細胞(progeny)中の胎児ヘモグロビン発現を亢進させる.

方 法

健常ドナーから採取した CD34 陽性細胞を,Cas9 と 72 種類のガイド RNA(gRNA)のいずれかとの複合体で電気穿孔して HBG1 および HBG2 プロモーターの CRISPR-Cas9 タイリングスクリーニングを行い,赤血球系分化子孫細胞中の胎児ヘモグロビン免疫染色陽性赤芽球(F 細胞)の割合を評価した.F 細胞の割合がもっとも高かった gRNA(gRNA-68)を臨床開発用に選択した.OTQ923 の安全性と有害作用プロファイルを評価するため,重症鎌状赤血球症患者を,多施設共同第 1・2 相臨床試験に組み入れた.

結 果

前臨床実験では,CRISPR-Cas9 と gRNA-68 で編集された CD34 陽性 HSPC(健常ドナーと鎌状赤血球症患者から採取)は,標的とした変異に対する編集を維持しており,オフターゲット変異は認められず,in vitro で分化させても,免疫不全マウスに異種移植しても,胎児ヘモグロビン濃度を上昇させた.試験では,3 例の患者に,骨髄破壊的前処置後自家 OTQ923 を投与し,6~18 ヵ月間追跡した.追跡期間終了時に,全例で生着が認められ,胎児ヘモグロビンは安定して誘導され(全ヘモグロビンに占める胎児ヘモグロビンの割合 19.0~26.8%),赤血球内に広く分布していた(赤血球に占める F 細胞の割合 69.7~87.8%).鎌状赤血球症の症状発現は追跡期間中に減少した.

結 論

CRISPR-Cas9 による HBG1 および HBG2 遺伝子プロモーターの破壊は,胎児ヘモグロビンの誘導に有効な戦略であった.重症鎌状赤血球症患者 3 例に自家 OTQ923 を投与した結果,赤血球中の胎児ヘモグロビンの誘導が維持され,疾患の重症度が臨床的に改善した.(ノバルティス ファーマシューティカルズ社から研究助成を受けた.ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT04443907)

英文アブストラクト ( N Engl J Med 2023; 389 : 820 - 32. )