角膜上皮の幹細胞(ステムセル)移植による重症眼表面疾患の治療
Treatment of Severe Ocular-Surface Disorders with Corneal Epithelial Stem-Cell Transplantation
K. TSUBOTA AND OTHERS
スティーブンス–ジョンソン症候群,眼類天疱瘡,ならびに熱化学傷のような,角膜輪部が破壊される病態は,角膜上皮の幹細胞を枯渇させることがある.その結果,正常な透明角膜に瘢痕化と混濁化が起る.このような機能的失明は,標準的な角膜移植では治療することができない.
重症眼表面疾患と角膜輪部機能障害を併せもつ患者 39 例,43 眼に対して,アイバンクより提供を受けた 70 の角膜上皮幹細胞を移植し,その評価を行った.これらの患者のすべてにおいて薬物治療が無効であった.これら患部眼の術前の平均視力は 0.004(検査者が示した指の数を数えられるだけの視力)であったが,この視力は,多くの国々の法的盲目の基準を満たすものである.また,28 眼に対しては,標準的な角膜移植も同時に実施した.最初の移植の治療成績が不充分であった場合には,最大で 1 眼に対して 4 回の幹細胞移植を行った;2 回以上の移植を行ったのは 19 眼であった.患者の経過観察は,移植後少なくとも 1 年間は実施した.
幹細胞移植後の平均観察期間 1,163 日 において,角膜の上皮形成が 43 眼中 22 眼(51%)で認められた;この 22 眼のうち,7 眼には角膜組織の浮腫が認められが,15 眼には角膜の透明化が確認できた.平均視力は 0.004 から 0.02(1 m 離れた試視力表の最大の記号を充分に識別できる視力)に回復した(p<0.001).角膜の透明化が維持されていた 15 眼については,最終的な平均視力が 0.11(5 m 離れた試視力表の最大の記号が識別できる視力)にまで回復した.初回移植の合併症としては,26 眼に角膜上皮欠損の持続が認められ,16 眼に高眼圧症,また,角膜移植を行った 28 眼のうちの13 眼に角膜移植片の拒絶反応が認められた.この上皮欠損は,最終的には,2 眼を除くすべてにおいて治癒した.
この角膜上皮幹細胞の移植は,一部の重症眼表面疾患の患者の視力を十分に回復させることができる.