February 18, 1999 Vol. 340 No. 7
Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)におけるバンコマイシン耐性の出現
EMERGENCE OF VANCOMYCIN RESISTANCE IN STAPHYLOCOCCUS AUREUS
T.L. SMITH AND OTHERS
メチシリン耐性 Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)の出現以来,グリコペプチド バンコマイシンが,ブドウ球菌感染症における唯一効果の変わらぬ有効な治療法であった.1997 年,米国において,バンコマイシンに対する感受性が低下した S. aureus による 2 件の感染症が確認された.
バンコマイシンの最小発育阻止濃度(MIC)が 8~16 μg/mL と定義されたグリコペプチド系中等度耐性を示した S. aureus による感染症の 2 例の患者について検討した.これらの S. aureus 株の保菌と伝播を評価するために,患者と患者の接触者から採取した検体を培養し,そこからの分離株についての評価を行った.
1 例目の患者は,糖尿病と慢性腎不全を合併していたミシンガン州に住む 59 歳の男性であった.透析に起因したメチシリン耐性 S. aureus による再発性の腹膜炎に対して行われたバンコマイシン治療の 18 週後に,グリコペプチド系中等度耐性 S. aureus による腹膜炎が発症した.この感染症は,腹膜カテーテルの抜去と,リファンピンおよびトリメトプリム–サルファメトキサゾールの併用療法で消失した.2 例目の患者は,ニュージャージー州に住む 66 歳の糖尿病の男性であった.メチシリン耐性 S. aureus による再発性の菌血症におけるバンコマイシン治療の 18 週後に,グリコペプチド系中等度耐性 S. aureus による菌血症が発症した.この感染症は,バンコマイシン,ゲンタマイシン,およびリファンピンで消失した.どちらの患者も死亡した.グリコペプチド中等度耐性 S. aureus の臨床分離株は,パルスフィールドゲル電気泳動で二つのバンドが異なっていた.電子顕微鏡検査では,感染症患者からの分離株は,対照のメチシリン耐性 S. aureus の分離株よりも細胞外マトリックスが厚くなっていた.この 2 例の患者の接触者 177 例には,保菌を示すような証拠はまったく得られなかった.
グリコペプチド系中等度耐性 S. aureus の出現は,抗生物質の慎重な使用,検査室の耐性株の同定能力,および伝播を防ぐための感染管理対策実施の重要性を強調するものである.