急性前骨髄球性白血病におけるアネキシン II と出血
Annexin II and Bleeding in Acute Promyelocytic Leukemia
J.S. MENELL AND OTHERS
急性前骨髄球性白血病(APL)は,全トランスレチノイン酸(all-trans-retinoic acid:ATRA)の治療に反応する原因不明の出血性疾患と関連がある.
APL または他の病型の白血病の患者から採取した細胞を用いて,新たに報告されたフィブリン溶解タンパクの受容体であるアネキシン II(annexin II)についての検討を行った.APL に特有な転座,t(15;17) を有する APL 細胞,またはこの転座を有しない APL 細胞の存在下で,組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)による in vitro でのプラスミン生成の初速度を調べた.さらに,アネキシン II の遺伝子発現および細胞表面上でのプラスミン生成に対する ATRA の作用も検討した.
螢光標識抗体で検出したアネキシン II の発現は,APL 型以外の白血病細胞よりも APL 患者から採取した白血病細胞で大きかった(平均蛍光強度,APL 型とそれ以外で,それぞれ 6.9 および 2.9;p <0.01).t(15;17) 陽性の APL 細胞は,細胞表面の t-PA 依存性プラスミン生成を,t(15;17) 陰性細胞よりも 2 倍程度効率的に刺激した.このプラスミン生成の増加は,抗アネキシン II 抗体によって抑制され,t(15;17) 陰性細胞ではアネキシン II の相補的 DNA のトランスフェクションによって誘導された.t(15;17) 陽性 APL 細胞には,アネキシン II のメッセンジャー RNA(mRNA)が多量に含まれていたが,ATRA で処理すると,この mRNA はその後の転写メカニズムを介して消失した.
APL 細胞の表面におけるアネキシン II の異常に高レベルの発現は,フィブリン溶解タンパクの一つであるプラスミンの産生を増加させる.そして,このアネキシン II の過剰発現が,ALP の出血性合併症の発症メカニズムなのかもしれない.