October 28, 1999 Vol. 341 No. 18
死亡の予測因子としての運動直後の心拍数の回復
Heart-Rate Recovery Immediately after Exercise as a Predictor of Mortality
C.R. COLE, E.H. BLACKSTONE, F.J. PASHKOW, C.E. SNADER, AND M.S. LAUER
運動に伴う心拍数の増加は,一つには,迷走神経の緊張が低下することによるものである.そして,運動直後における心拍数の回復は,迷走神経の再活性化に伴う作用の一つである.迷走神経の活性の全般的な低下が死亡の危険因子であることがわかっているので,われわれは,運動後に起る心拍数の減少の遅延が重要な予後マーカーの一つかもしれないという仮説をたてた.
心不全または冠動脈血行再建の病歴がなく,ペースメーカも使用していない,連続して受診した成人 2,428 例(平均 [±SD] 年齢,57±12 歳;男性 63%)に対して,6 年間にわたる追跡調査を行った.これらの患者に,診断の目的で,症状発現により中止する運動負荷試験と,タリウムシンチグラフィを用いた単一光子放射断層撮影(SPECT)を行った.心拍数の回復を測定するために用いた値は,最大運動時の心拍数から運動中止 1 分後の心拍数までの心拍数の減少量として定義した.そして,この心拍数回復の値が,最大運動時の心拍数から 12 回/分以内の減少であった場合に異常値と定義した.
何らかの原因によって 213 例が死亡した.心拍数回復の値が異常値であった患者は,合計で 639 例(26%)であった.単変量解析では,心拍数回復の値が低値であることが死亡を強く予測していた(相対リスク,4.0;95%信頼区間,3.0~5.2;p<0.001).年齢,性別,薬物治療の有無,タリウムシンチグラフィによる心筋の灌流低下の有無,標準的な心臓の危険因子,安静時心拍数,運動中の心拍数の変動,および実行した運動量によって補正しても,心拍数回復の値の低値は,依然として死亡を予測した(補正相対リスク,2.0;95%信頼区間,1.5~2.7;p<0.001).
負荷漸増法による運動を終了してから 1 分間の心拍数における心拍数減少の遅延は,迷走神経の活性の低下を反映しているのかもしれないが,この遅延は,運動の負荷量,心筋の灌流低下,および運動中の心拍数の変動には影響を受けない独立した全死亡の強力な予測因子の一つである.