December 2, 1999 Vol. 341 No. 23
拡張型心筋症および伝導系障害の病因としてのラミンA/C 遺伝子の桿状ドメインにおけるミスセンス突然変異
Missense Mutations in the Rod Domain of the Lamin A/C Gene as Causes of Dilated Cardiomyopathy and Conduction-System Disease
D. FATKIN AND OTHERS
拡張型心筋症の患者の約 35%は遺伝性突然変異によるものである;しかしながら,この疾患に関連している遺伝子はほとんど同定されていない.われわれは,これまでに,常染色体優性遺伝の拡張型心筋症および伝導系障害の原因となっている遺伝子欠失の一つが,第 1 染色体の p1–q21 に位置していることを突きとめている.ここは,核膜蛋白質のラミン A とラミン C が LMNA(ラミン A/C)遺伝子にコードされている場所である.この遺伝子の,これらの蛋白質のアミノ末端(N 末端)ヘッドまたはカルボキシル末端(C 末端)テールを暗号化している領域の突然変異が,エメリー–ドレイフス型筋ジストロフィーの原因となっている.この疾患は,幼児期に発症する関節の拘縮が特徴の疾患であるが,患者によっては成年期に心臓の伝導異常が顕著に現れることもある.
常染色体優性遺伝の拡張型心筋症と伝導系障害の患者が発見された 11 家族について検討した.ラミン A/C 遺伝子のエクソンの DNA 配列は,発見のきっかけとなった各家族の発端者の DNA 配列を決定し,これに対する変異を制限酵素による切断によって確認した.このようにして,これらの家族員の遺伝子型を確定した.
五つの新しいミスセンス突然変異が同定された:すなわち,ラミン A/C 遺伝子のαヘリクッス構造の桿状ドメインの遺伝領域に四つの突然変異と,ラミン C の C 末端テールの遺伝領域に一つの突然変異が同定された.これらの突然変異のそれぞれが原因となって,遺伝性の進行性伝導系障害(洞徐脈,房室伝導ブロック,あるいは心房性不整脈)と拡張型心筋症が発症していた.また,これらの家族には,心不全と突然死も高頻度に起こっていた.これらの突然変異を保因していた家族員には,関節の拘縮や骨格筋ミオパシーを有する患者はいなかった.血清クレアチニンキナーゼの濃度は,ラミンの桿状ドメインの遺伝領域に突然変異を保因していた家族員では正常であったが,ラミン C の C 末端テールの遺伝領域に欠失があった家族員には軽度上昇しているものもいた.
核膜蛋白質のラミン A とラミン C の遺伝子の特定の領域における遺伝的欠失が,伝導系障害や常染色体優性遺伝であるエメリー–ドレイフス型筋ジストロフィーを伴った拡張型心筋症を選択的に発症させる.ラミン A/C 遺伝子の桿状ドメインの遺伝領域のミスセンス突然変異は,拡張型心筋症の遺伝的原因になっているとともに,この中間径フィラメントの蛋白質が心臓の伝導と収縮性に重要な役割を担っていることを示している.