レジデントの労働時間と業務量の削減が社会的費用に及ぼす影響
Cost Implications of Reduced Work Hours and Workloads for Resident Physicians
T.K. Nuckols and Others
卒後医学教育認定評議会(Accreditation Council for Graduate Medical Education:ACGME)はレジデントの労働時間を制限しているが,疲労に対する懸念は続いている.米国医学研究所(Institute of Medicine:IOM)は最近の報告で,改正点の中でもとりわけ,2003 年に ACGME が設けた労働時間の遵守を向上させること,長時間シフト時には仮眠を取ること,仮眠を取らないシフトは 16 時間までとすること,業務量を削減することを勧告している.
既報のデータから,レジデントの過剰な業務をほかの医療提供者に振り分けるために要する人件費を算出し,想定される影響を感度分析で検討した.次に,主要教育病院が負う純費用と費用対効果を,人件費,および医療過誤すなわち予防可能な有害事象に関連する死亡率と費用を表す確率モデルを用いて,予防可能な有害事象発生率の仮定上の変動範囲で推定した.
IOM 勧告の実施に伴う年間人件費は,全 ACGME 認定プログラムで計 16 億ドル(2006 年の米ドル価)と推定された(感度分析では 11 億~25 億ドル).予防可能な有害事象が 10%減少した場合~10%増加した場合でみると,主要教育病院が負う入院 1 件あたりの純費用は 10%減少で 99 ドルであったのに対し,10%増加で183 ドルであった.社会的費用は 10%減少で 17 ドルであったのに対し,10%増加で 266 ドルであった.予防可能な有害事象が 2.5%減少した場合,回避された死亡 1 例あたりの社会的費用は 340 万ドルであったのに対し,11.3%減少した場合は,レジデントの業務をほかの医療提供者に振り分けるための社会的費用を要しないため 0 ドルであった.
IOM の 4 つの勧告を実施するために要する費用は高額であり,その費用対効果は明らかではない.効果が高ければ,社会的費用を抑えながら患者への危害を防ぐことができる可能性がある.しかし,教育病院が負う純費用は高額なままであると考えられる.