英国におけるプライマリケアの質に対する Pay for Performance の影響
Effects of Pay for Performance on the Quality of Primary Care in England
S.M. Campbell and Others
英国では 2004 年に,臨床ケアの質に関する目標達成度に基づいた「実績に基づく支払い(pay-for-performance)」制度が家庭医診療に導入された.
家庭医診療を代表する 42 施設を対象に,制度導入前の 2 時点(1998 年と 2003 年)と導入後の 2 時点(2005 年と 2007 年)で収集したデータにより,医療の質に関する分割時系列分析を実施した.各時点で,喘息,糖尿病,冠動脈性心疾患の患者の医療に関するデータを,医療記録から抽出した.また,質問票により,医療へのアクセス,医療の継続性,医療における対人関係に対する患者の認識に関するデータを収集した.解析には,医療の報酬に関連する側面と,関連しない側面の両方を含めた.
2003 年から 2005 年にかけて,医療の質の改善率は,喘息と糖尿病については上昇したが(P<0.001),心疾患については上昇しなかった.2007 年には,3 つの疾患すべてで改善は減速し(P<0.001),報酬に関連しない側面の質が,喘息,心疾患の患者で低下した.pay-for-performance 制度導入前の期間に比べて,2005 年以降の改善率は,喘息と糖尿病については変化はみられなかったが,心疾患については低下した(P=0.02).医療へのアクセスと対人関係に関する患者の報告には,有意な変化は認められなかった.それまで安定していた医療の継続性は,制度導入直後に低下し(P<0.001),その後も低下したままであった.
pay-for-performance 制度導入前の医療の質は向上していたが,この制度の導入後,短期的には 3 つの慢性疾患のうち,喘息と糖尿病の 2 つに対する医療の質がさらに向上した.しかし,目標が達成されると,これらの疾患を有する患者における医療の質の改善は減速し,喘息と心疾患の 2 つについては,報酬に関連しない医療の質が低下した.また,医療の継続性は制度の導入後に低下した.