October 1, 1998 Vol. 339 No. 14
脂肪細胞分化の遺伝的制御因子の変異に関連した肥満
OBESITY ASSOCIATED WITH A MUTATION IN A GENETIC REGULATOR OF ADIPOCYTE DIFFERENTIATION
M. RISTOW, D. MÜLLER-WIELAND, A. PFEIFFER, W. KRONE, AND C.R. KAHN
肥満にいたる遺伝的因子の証拠は増加しているが,関与する正確な遺伝子は明らかにされていない.ペルオキシソーム・増殖因子活性化受容体γ2(PPARγ2)は,脂肪細胞の分化において重要な役割を果たしている転写因子であり,したがって,この因子の遺伝子変異は人々を肥満になりやすくする可能性がある.
われわれは,肥満被験者(body-mass index[体重(kg)を身長(m)の二乗で除したもの]が 29 以上の人として定義する)121 人を含む非血縁のドイツ人被験者 358 人を調べた.特異的エンドヌクレアーゼ消化と組み合せたポリメラーゼ連鎖反応に基づくアッセイを用いて,蛋白の転写活性の負の制御をする 114 位でのセリンのリン酸化部位またはその近傍での PPARγ2 遺伝子変異の有無について,これらの被験者を評価した.同定された変異の活性は,マウス線維芽細胞でのレトロウイルス・トランスフェクションおよび過剰発現によって分析した.
肥満被験者 121 人中 4 人が,PPARγ2 の遺伝子にミスセンス変異を有し,115 位でプロリンがグルタミンに置換していたのに対し,通常体重の健常被験者 237 人に変異は認められなかった(p = 0.01).変異対立遺伝子を有する被験者は全員著しい肥満で,body-mass index が 37.9~47.3 であったのに対し,その他の肥満被験者では平均 33.6 であった.マウス線維芽細胞で変異遺伝子を過剰発現させると,114 位でのセリンのリン酸化が欠損している蛋白が産生されるほか,細胞の脂肪細胞への分化が促進され,トリグリセリドの細胞内蓄積量が野生型 PPARγ2 よりも増大した.これらの影響は,Ser114 のリン酸化部位で直接作製した in vitro 変異の影響と同様であった.
PPARγ2 における Pro115Gln 変異は,脂肪細胞の分化を加速し,肥満を引き起す可能性がある.